古酒の楽しみ
会社の事務所に日本酒が数年間おいてありました。
その名も「萬寿鏡 甕覗 本醸造酒」
昨日年末のかたづけで数年ぶりであけてみました。すると・・・
木の蓋の下に二重に被せられたラップが凹んで空気を遮断していたことを示しています。そしてその下は見事な飴色に。
パリパリになった上のラップとしっとりたわんだ下のラップを取り去ると、紹興酒のような香りが立ち上ります。
ついているプラスチックの勺で注いでみると、古くなった酒につく「老香(ひねか)」がありません。見事な熟成です。
紹興酒のような丸い苦味と新たに生まれた強い甘み。薄い麦芽糖のようでもあります。
とある日本酒メーカーの営業さんが「瓶詰めして火入れしたらそれ以上の熟成はありません。劣化するだけです」と断言していましたが、瓶内熟成もあると思っています。
ちなみに今回は甕なので、瓶より呼吸すると言われていますし、光が完全にさえぎられたのと、さらに封がされて酸化しなかったのも良かったのでしょう。
日本酒はワインと違って賞味期限が決められています。基本その年に作った酒はその年に飲め、という感があります。
それは年間平均気温があまり変わらないヨーロッパと違い、高温多湿で一年の気候の変化に富んだ日本は熟成に向かないということもあるでしょうが、一年に製造された日本酒が何年も先に残されていては売り上げが落ちるという日本酒メーカー業界の意図もあるでしょうし、やたら期限表示に神経質な行政と製造・流通と、それに慣らされた消費者の過敏さにもよるのでしょう。
最近農林水産庁が「賞味期限は消費期限と違って、すぐに劣化するものではありません」と言い出しました。賞味期限の表示を見直しているとかで、「もったいない」と言っています。
缶ビールなども、缶詰と同じなのですから賞味期限が過ぎてもすぐ劣化するわけではないのに、40歳近い主婦が「賞味期限過ぎてものめるんですか???」と言うくらい知られていないのですね。
ちなみに味が「丸くなる」といいますが、味は五味(甘い・苦い・辛い・しょっぱい・すっぱい)と言われますがそれをよく五角形のグラフで表します。
新しい酒はワインでも日本酒でも焼酎でもウィスキーでも、苦味や酸味が立っ(グラフの中のその味が突出するので立つというのでしょうか)て、いびつな五角形になります。
それが熟成されると不思議と苦味酸味が穏やかになり、甘みなどが強くなり正五角形に近くなります。辛くなるかは判りませんが・・・。
正五角形ということは、それをつなげば円になり、つまり「丸くなる」というわけです。
ワイン界では常識なのですが、熟成というものを知らない日本人は、熟成させる焼酎や泡盛でさえ熟成の効果というものをよくわかっていません。
早ければよい、古くなれば捨ててしまえ、という寂しい文化から熟成を楽しめる円熟した文化になるまであとどれくらい年月が必要なのでしょうか。