ネットニュースを見ると、「ハイボールブームで「山崎」が店から消えた!? なぜか入手困難になった大人気ウイスキーを夜の街で追跡捜査」という記事が出ていました。
その記事の内容はともかく、酒屋として日頃お客様からの問い合わせに答えていることを書いてみます。(一番はサントリーの方に聞くことかと思いますが)
①需要の高まり
ハイボールブームというより、ドラマ「マッサン」で火が付いた「ジャパニーズウィスキーブーム」だと思いますが、そこから竹鶴・山崎・響とのきなみ高級なものが供給>需要となりました。
それまでウィスキーというのは、当時人気絶頂だったキムタクを使っても売れないくらい何をやってもダメというほどに売れず、一部の高級飲食店でのみ細々と売り続けられていた状態でした。
それ以外のところではホステスさんには「私茶色いお酒飲めないの」と言われたほど時代は焼酎になっていました。
それがこれだけなくなるということは、「それまでずっと飲んでいた」という人たちがいくらたくさん飲んだからと言ってこうなるわけはなく、それまで飲んでいなかった人たちが猫も杓子も「ジャパニーズウィスキー」を指名しているという事でしょう。
②ハイボールブーム
どうやっても売れないウィスキーを、どうにか売ろうと苦心したところ、「カンパイをビールから切り替える」という、ビールメーカーとしてはご法度な企画がトップの英断で通ったというサントリー。
ジョッキに入れ、レモンを入れてフレーバーを抑えたスタイルで「角ハイ」を出したのが大当たり。実は飲み放題でビールの原価高に苦しむ飲食店でうけいれられたという事情もありました。
しかしハイボールは、基本角やトリスという低価格ウィスキーが主流でしたが、「プレミアムハイボール」として山崎・白州を押したことでハイボールの幅も広がり、高級ウィスキーも需要が伸びた事は間違いありません。
なお、12年物をハイボールにするとさすがに高いので、「ノンエイジ」という廉価版を発売することで「山崎・白州」という名前を使いながら低価格でハイボールを出せる、ということに成功しました。
③供給は固定的
ドラマの中で、ニッカが「大日本果汁」という名前であったように、ウィスキーを売る為には10年近く寝かさなければならず、それまでリンゴジュースを売ってしのいだのは有名な話です。
そのように「〇〇12年」と言ったら12年前に仕込んだもののわけで、12年前と言えばウィスキー絶不調の時代ですから当然に仕込み量も少なかったわけです。よって、今のブームに対応しきれる量が今あるわけでなく、今から仕込んでも「12年後まで待ってね」ということになるわけです。
よって、需要が高まれば高まるほど、ダイヤモンド原理で高くなるのがウィスキーというもので、高騰するのも仕方ないとも言えるでしょう。
④すそ野を広げる
急速な需要を満たすため、サントリーがとった決断は「12年をくずしてノンエイジを広げる」でした。
ノンエイジとは「〇年もの」とはうたわず、若い原酒を使う事を意味します。しかし、山崎らしい風味を出すためには、若いだけの原酒をつかってはできません。よって、12年に若い原酒をブレンドして、「風味を残しながら量を増やす」ということになります。つまり「12年も使ってますが・・・」ということです。
そうやって12年の原酒に若い原酒をブレンドしてノンエイジを増やし、高まるニーズにこたえている為、より「12年」は数を減らし、より手に入らなくなっているのです。
⑤手に入らないもののオススメ対処
手に入らない山崎をどうしたらいいのか? それは「他のものを飲む」ことだと個人的に思っています。
山崎が何よりお好き、という方はいらっしゃるでしょうが、その方だけではこんなに足りなくなることもないはずで、やはり「足りない=価値が高い」という日本人に顕著な流れのような気がしてなりません。「お坊さんも袈裟によって価値が上がる」という昔の日本文化的だとは思いますが。
ワインでは、需要が高まれば評価が上がり、価格も上がるのだと思いますが、生産者の出荷額が上がり利益が生まれ、よりいいものを作れるならばいいことだと思います。
しかし、日本の場合には、価値が上がってもメーカーの出荷額はまずあがりません。それが流通の中であがっていくのです。自分も流通業者ですが、希少価値によって手に入らず、もっている業者から買い、その業者さんもどかかからか買い、と流れて流れて少しずつ利益を載せていって高額になったものを売るのは心苦しく思います。ちょっとは儲けさせてもらいたいというのも本音ではありますが。
ワインのプリムール=価値を見極めた先物買いというよりも、相場にはった感のある日本のプレミアム価格については、メーカーさんの決めた価格に準じているなら飲んで「コスパがいいね」と楽しむ。それ以上のプレミアム価格なら飲まない。飲んだとしても「味ではなく希少さを楽しんでいる」と理解されてはいかがかと思います。